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3、 後宮
あれから数日が経った。紅仁は特に何をするわけでもなく、後宮に与えられた自室で呆然と過ごしていた。
「紅仁様、お庭の花も今日は昨日より沢山咲いて見事ですよ」
朝一で部屋に来た泉花は、窓の外を見ながら明るい声で言った。
泉花は「紅仁」という名が本名ではないと知るなり、名前で呼ぶようになっていた。そして同時に待ちに待った主が出来たことが嬉しい泉花は、また紅仁に自殺を図られたらたまらないとでもいうかのように、常に紅仁につきっきりとなっていた。また紅仁自身も見知らぬ土地でまたもや受け入れてもらえない自分に苦しんでいたため、泉花の存在は何よりも有り難かった。その結果2人の仲はたった数日の間にかなり深まり、親しげなものとなっていた。
「今日はこの白藍の衣はいかがでしょうか」
泉花はこれまた美しいシルクで出来た漢服を取り出して言った。
紅仁は上衣下裳といった豪奢な衣装を着たのはあの「婚儀」の日だけで、それ以降は深衣といった少し簡易になった服を着ていた。だが略式の服とはいえ、かなり立派なものであることには変わりはなかった。
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