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「慶一郎は喜ぶと思ったのじゃが……。人の感覚とは難しい」
「他人事(ひとごと)みたいに言うなよ、朔」
そう十夜がとがめると、
「むぅ、そうは言われても、わしから見れば人のしきたりは人事(ひとごと)なのじゃ」
なかなかに笑えない冗談をこの神様は言う。
「しかし、店主が言うのならばそれに客も従うのも礼儀というものだな。わかったぞ。わしから、皆にはわしと同じように金額通りの金をその場で支払うように言っておこう」
「お願いします……」
しかし、まさか神様なりの支払いだったとは……。彼らに悪意がないとはいえ、これからの生活のためには止めていただかなくてはならない。
そんな話が落ち着いたところで、十夜はあることに気づく。
「ところで。朔。そのお金ってどこから出ているんだ」
「ん、安心するのじゃ。これはな、きちんとしたわしの金じゃよ」
「具体的に」
「産右神社の賽銭箱」
「俺んちの金じゃないか」
「わしへの賽銭箱なのだから、これはわしの金じゃ」
ここに新たな問題が発生したようで……。十夜と朔は醜い言い争いを始めた。
「神様面倒くさい……」
今まで黙って話を聞いていたアルバイトのハジメはただ小さくつぶやいた。
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