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うさぎやと鼻の大きな男
お客様は神様です。
そんなことを誰が口にしたのだろうか。
ここは産右(うぶう)神社のおひざ元。甘味喫茶店・うさぎや。
うさぎやのコーヒーを求め、今日も神様が店を訪れる。
なお、『お客様は神様だ』なんていう文言はこの店に限っては比喩表現ではない。
本当にうさぎやには神様がお客様としてやってくるのだ。
不思議な客がいる。
帽子を深くかぶった男は店に入ってきて、コーヒーを頼むと深く大きなため息をついた。
慶一郎は目しか出ていないぶ厚いマスクが気になったが、まさか強盗の類ではないだろうと、判断した。とりあえず店主として、コーヒーを入れつつ、冷たいミルクを冷蔵庫から出した。
「お待たせしました。本日のブレンドになります」
慶一郎が客の前に煎れたてのコーヒーを置く。
「ミルクと砂糖はお好みで」
男はただ頷いた。
特になにも飲み方などを聞かれなかったので、慶一郎はすぐに下がった。けれど、他に客もいなかったこともあり、どうにもその客が気になる。らしくもなく、ちらちらと見てしまう。
帽子の男はコーヒーをじっと見ていた。飲むためにマスクを外す様子もない。
(いったい何なのだろうか……)
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