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もしかしたら誰かと待ち合わせなのかもしれない。ならば、コーヒーを出すタイミングを間違えたと思う。
これはどうしたものか。
店の若き店主、慶一郎が悩んでいると、その客は現れた。
「慶一郎!わしに『いつもの』じゃ!」
無邪気な和服の少年が店に入ってくるなり、大きな声を挙げた。
そして、ぴょいっとお気に入りのカウンター席に座る。
「朔さん。今日のコーヒーと抹茶アイスを使ったおまかせスイーツでいいですね」
「ふむふむ。よくわかっておるのう」
少年はカウンターテーブルを嬉しそうにタンタンと叩いた。
「朔さんはここの常連ですからね」
「そうじゃのう。ここはわしが贔屓にしていて、わしの御用達の店じゃ」
彼の容姿には似あわない不思議な老人しゃべりが気にならない程度には。
常連という言葉に朔は嬉しそうに笑う。
いつものやり取り。いつのもの客。
だが……。
「おや?」
慶一郎がコーヒー豆を取り出している間に、朔は例の謎の客に気がついたらしい。
「猿田彦(さるたひこ)ではないか?」
突然朔に声をかけられ、マスクの男はあからさまに動揺していた。
「し、知りませんなぁ、そのような男の名」
明らかに声が上ずっている。
「猿田彦。そのような薄い布で、お前の大きな鼻が隠せると思っているのか?」
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