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(あぁ、コーヒーに不備があったわけじゃないのか……)
慶一郎は少しだけ安心したが、ではなぜこの男はこの店に来たのだろうという疑問がわいた。
「そもそも、猿田彦?わしはおぬしにこの店のことを話していないと思うのじゃが……」
「……」
「さては鈿女(うずめ)に聞いたな?」
彼の顔から察するにどうやら事実らしい。
「まぁ、鈿女に言えばおぬしに話したも同然だと思っていたから別にいいのじゃ。……ところで鈿女は……おぬしの恋人はなぜいないのだ?」
「それは……」
「それは?」
「敵情視察です!」
男はもう恥ずかしさと踏ん切りがついたのか、彼は立ち上がり、顔をグイッとあげた。
「敵情視察?」
思わず慶一郎と朔は聞き返してしまう。
「だってそうでしょう?心地よい空間、魅惑の飲み物、黄泉の国に言ったものですらそれを口にすれば帰ってきてしまうほど甘く、冷たい謎のお供物……」
たぶん、抹茶アイスのことだろう。朔はこの店に来ると決まって、抹茶アイスを口にする。
「そして顔の良い店主!」
「はぁ?」
いきなり指を刺され、慶一郎は声を上げてしまう。
「ですから、どれほどのものか!私はこの目で見てやろうと」
ぎろりと慶一郎を睨む。けれど、その瞬間、急速に勢いを失って椅子に体を預ける。
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