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夏休みの課題製作が思うように進まず、小さなアパートの一室でくすぶっている美大生は、日本に何人くらいいるんだろう。
100人? 200人?
大勢のお仲間のことを思い浮かべて、安心しようとしている自分に嫌気がさす。汚れた指を拭うこともせずにベッドに倒れた。
ラジオからは深夜のヘッドラインニュース。関税引き上げ、交通事故、夜空に現れる流星群の予報。
天井にロープを渡し吊り下げた水彩画が、扇風機の風に揺れている。
淡い色合いの下書きたち。
万国旗みたいなそれらは魅力的なのに、いざ本番、とキャンバスに向かうと途端に色褪せる。
やっぱり才能がないんだな、と目を閉じる。
情熱が冷めやすいところが、欠点だ。
分かってる。
時計を見ると午前3時。
作業に取り掛かったのが夕方5時だから、たった10時間。
費えたパッションに愕然とする暇もなく、まぶたが重くなった。
とく、とく、とく。
浮き上がったり沈んだりする眠りの中、暖かな熱源を感じた。
すぐそばに聞こえる穏やかな呼吸に、一度ほどけた眠りが、また紡ぎ合わされるようだ。
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