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新年会の当日は金曜日でした。
その日は会議が長引き、
啓介には先に行ってもらうことにしました。
会議が終わり急いで向かいましたが、
大幅な遅刻で申し訳ない気持ちと
不安な気持ちを持ち合わせて参加しました。
皆さんは嫌な顔一つすることなく温かく
出迎えてくれました。
手を振る啓介の隣に座りました。
新年の挨拶とともに乾杯。
今日も流れるように速い手話が
あちこちで飛び交っていました。
啓介は優しく私に微笑みながら言いました。
『 何も心配はいらないよ』
その一言に私は安心し笑顔で頷きました。
優花さんも遠くない場所に座っていました。
いつも話しかけてくれる翔平くんが
ビール片手に私の隣に座りました。
同い年の翔平くんは明るくて楽しい人です。
どんなにお酒が入っていても、
ゆっくりな手話で話しかけてくれます。
そして分からない手話も教えてくれる。
私も気兼ねなく手話でお話出来て、
もっと友達になりたいって思っていました。
啓介が遠慮したのかはわかりませんが、
お酒を持ち別の席に移動しました。
翔平くんとたわいもない話で盛り上がり、
2人で笑っていた時でした。
優花さんがやってきて、
翔平くんに席を代わって欲しいと伝えて、
優花さんが私の隣に座りました。
2人無言のまま・・・
気まずい雰囲気でした。
沈黙を破り優花さんから出た手話は、
謝罪の言葉でした。
『 不愉快な思いをさせてごめんなさい 』
そう優花さんは私に謝りました。
「 啓介から話を聞いていたので
もう大丈夫なので・・・」
私がそう伝えると、
私が言った言葉が悪かったのでしょうか。
優花さんは表情を変え言ってきた言葉に
私は耳を疑いました。
『 啓介のことは私の方が解ってる。
聞こえない者同士だから。
絶対あなたと啓介はうまくいかない。
啓介を深く傷つけてしまう前に
別れて欲しいって思ってる 』
予想もしてなかった言葉です。
到底理解出来るはずもなく、
そこまで言われるか私が情けなくもあり、
我慢の限界を超え呆れた私は
言い返しました。
「 可哀想な人・・・
そんな風にしか思えないなんて 」
『 あなたは聞こえる世界にいるのだから
聞こえる彼氏を見つけたらいいのに、
なぜ聞こえない人を選ぶ必要があるの?
すこしだけ興味を持っただけでしょ 』
さすがの私もキレましたね。
お口が悪い悪い。。。
「 私達2人の事に優花さんは関係ない。
だから何を言われても響かない。
理由なんかない。
私が好きになった啓介は
耳が聞こえない人だった。
ただそれだけの事。
聞こえる世界?
聞こえない世界?
なにそれ。バカなの?
そんなもん2人の間には必要ないんだわ 」
緊迫した雰囲気に啓介が割って入りました。
しかし優花さんも止まりません。
『 そんなの綺麗事
聞こえない者同士付き合った方が
理解し合えるし絶対うまくいく。
啓介とあなたは絶対うまくいかない。
そんなたどたどしい手話で理解
し合えるの? 』
その直後、啓介がもう充分だという風に
優花さんの手を押さえ止めました。
啓介はゆっくり優花さんから手を離して
言いました。
『 優花には失望した。
もうこれ以上は俺たちに関わるな 』
そう一言だけ告げたあと、
皆に謝り先に帰ることを伝え、
代金を置いた後、
私の手を取りお店を出ました。
私は手を引かれたまま歩き・・・
2人は無言のまま帰宅しました。
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