心に残るしこり

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心に残るしこり

啓介の家に帰宅しました。 いつものように珈琲を入れてくれます。 その間私達はお互い冷静に戻ろうと 思っていたと思います。 啓介の悲しげな表情がありました。 『 りかちゃん本当にごめん 謝りたいと言う優花の言葉を信じ りかちゃんに来てもらったのに、 こんなにも悲しい思いをさせて・・・ 全て僕が悪いよ。本当にごめん 』 「 啓介は何も悪くない。 そりゃあんな言い方されて 傷ついたけど優花さんの本音なんだよ。 もう関わるなって言ってくれたじゃん それでいいよ 」 『 聞こえないとそういう考えを持って いる人はやっぱり少なくないんだ。 聞こえない者同士だけで分かり合えれば いいじゃんってね 』 「 理解出来なくもないんだよね 聞こえない人同士の絆も強いと思うし 聞こえない事で経験した事も多いと 思うし、理解し合えるのも分かるよ。 だけど人を好きになるのにそれは 関係ない 」 『 りかちゃんの言う言葉に僕はいつも ハッとさせられる。 大切な事を思い出させてくれるんだ 』 「 え?なにそれ笑 普通だし 」 『 聞こえない世界? バカなの? そんなの2人には関係ないんだわ 完璧な手話だった笑 かっこよすぎて惚れ直しました 』 「 もういいって、恥ずかしいじゃん 」 『 いや、本当に心に響いたんだ 僕たちにはそんなのいらないね 』 「 うん・・・い ら な い 」 「 ねぇ啓介、もっと上手に手話出来る ように頑張るね 」 『 りかちゃんの手話は上手だよ もう充分すぎるくらい頑張って 覚えてくれたよ。 だからこれからは自然体でいい 』 「 だけど・・・速かったりすると やっぱり理解出来なくて 今日だって言い返したいこと もっとあったのに私の手話では 出来なかった 」 私は優花さんに言われた、 ”たどたどしい手話”が頭から離れず 泣きそうになってしまい、 珈琲のおかわりを入れようとキッチンに 逃げました。 涙を必死に我慢しましたね。 戻るとソファに座っていた啓介が ラグに座っていました。 きっと涙を堪え逃げた私を察して キッチンが見えるソファから見えない ラグに移動してくれたんだと思います。 そういう優しい気遣いが出来る人です。 『 おいで 』 啓介が声を出して言いました。 せっかく我慢したはずの涙が一瞬にして 流れてしまいました。 啓介は優しく私を抱きしめました。 『 ねぇりかちゃん 僕が声で言葉を発するとどうしても たどたどしくなってしまうのに りかちゃんは全部理解してくれるね。 おなじだよ。りかちゃんの手話は 僕も全部理解しているよ それだけ僕たちは通じ合えてるんだよ 』 「 そうだよね、大丈夫だよね 」 そう言う私に、 啓介は私の頭をなでながら頷きました。 大丈夫。 きっと大丈夫。 人がどう言おうと関係ないです。 2人にしかわからないこともある。 またこういうことが起こるかも知れない。 でもその時はまた2人で乗り越える。 お互いを理解し尊重し合う、 そうやって絆はより深くなる。 そう啓介が教えてくれました。
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