65人が本棚に入れています
本棚に追加
/200ページ
心に残るしこり
啓介の家に帰宅しました。
いつものように珈琲を入れてくれます。
その間私達はお互い冷静に戻ろうと
思っていたと思います。
啓介の悲しげな表情がありました。
『 りかちゃん本当にごめん
謝りたいと言う優花の言葉を信じ
りかちゃんに来てもらったのに、
こんなにも悲しい思いをさせて・・・
全て僕が悪いよ。本当にごめん 』
「 啓介は何も悪くない。
そりゃあんな言い方されて
傷ついたけど優花さんの本音なんだよ。
もう関わるなって言ってくれたじゃん
それでいいよ 」
『 聞こえないとそういう考えを持って
いる人はやっぱり少なくないんだ。
聞こえない者同士だけで分かり合えれば
いいじゃんってね 』
「 理解出来なくもないんだよね
聞こえない人同士の絆も強いと思うし
聞こえない事で経験した事も多いと
思うし、理解し合えるのも分かるよ。
だけど人を好きになるのにそれは
関係ない 」
『 りかちゃんの言う言葉に僕はいつも
ハッとさせられる。
大切な事を思い出させてくれるんだ 』
「 え?なにそれ笑 普通だし 」
『 聞こえない世界?
バカなの?
そんなの2人には関係ないんだわ
完璧な手話だった笑
かっこよすぎて惚れ直しました 』
「 もういいって、恥ずかしいじゃん 」
『 いや、本当に心に響いたんだ
僕たちにはそんなのいらないね 』
「 うん・・・い ら な い 」
「 ねぇ啓介、もっと上手に手話出来る
ように頑張るね 」
『 りかちゃんの手話は上手だよ
もう充分すぎるくらい頑張って
覚えてくれたよ。
だからこれからは自然体でいい 』
「 だけど・・・速かったりすると
やっぱり理解出来なくて
今日だって言い返したいこと
もっとあったのに私の手話では
出来なかった 」
私は優花さんに言われた、
”たどたどしい手話”が頭から離れず
泣きそうになってしまい、
珈琲のおかわりを入れようとキッチンに
逃げました。
涙を必死に我慢しましたね。
戻るとソファに座っていた啓介が
ラグに座っていました。
きっと涙を堪え逃げた私を察して
キッチンが見えるソファから見えない
ラグに移動してくれたんだと思います。
そういう優しい気遣いが出来る人です。
『 おいで 』
啓介が声を出して言いました。
せっかく我慢したはずの涙が一瞬にして
流れてしまいました。
啓介は優しく私を抱きしめました。
『 ねぇりかちゃん
僕が声で言葉を発するとどうしても
たどたどしくなってしまうのに
りかちゃんは全部理解してくれるね。
おなじだよ。りかちゃんの手話は
僕も全部理解しているよ
それだけ僕たちは通じ合えてるんだよ 』
「 そうだよね、大丈夫だよね 」
そう言う私に、
啓介は私の頭をなでながら頷きました。
大丈夫。
きっと大丈夫。
人がどう言おうと関係ないです。
2人にしかわからないこともある。
またこういうことが起こるかも知れない。
でもその時はまた2人で乗り越える。
お互いを理解し尊重し合う、
そうやって絆はより深くなる。
そう啓介が教えてくれました。
最初のコメントを投稿しよう!