偶然とは突然に

6/9
前へ
/11ページ
次へ
 はて、そのようなことがあっただろうか。  一週間前ならある程度は憶えているはずで。  教室でイジメられているところに俺が来たのなら、その光景ももちろん見ているはずで―― 「…………あ」  そう言えば…… 「その時、蕾君はただこう言ったよね。『先生が呼んでいる』って。それで、私をイジメていた女子達はそのままどこかに行っちゃったけど……」  そう――そのことなら憶えている。  一週間前――放課後で友達と話しをしていた俺に、突然数学の教師が近づいてきた。  何の用かと思ったら、とある女子数人を呼んで欲しいとの頼みだった。  そんな程度なら校内放送を使えば手っ取り早いモノの――なんで俺なのかと。  更に言えば、生徒が帰る時間に言うべきことじゃないと言うのにだ。  まあ、それでも断ったら俺の評価に関わるから断れずに。  その女子達が居そうな場所を探していると――この教室までやってきて。  そこに目的の女子がいたから、『先生が呼んでいる』とだけ伝えたのだ。  友達はその間に帰ってしまって、俺は不完全燃焼のまま帰宅した――嫌な一日だったのだが。  ……今思い返せば、そこには別の女子の死角になっていたが、確かに立花がいた。  ――なるほど、それで俺が立花を助けたことになったのか。  偶然とは凄いモノだな。  と言うか、数学の教師が呼んだ女子達って、確か……結構デカい問題を起こしたから停学中って話になっていたはずなんだが。  立花はそれを聞いていないのか?  まあ、クラスが違う女子だったから、俺も友達から聞いただけなんだが。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加