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「そうか……」
そうだった.
彼女には弟がいて,
あの頃俺は,その弟にカードゲームで負けまくっていた.
彼女が住んでいた団地内にある物置で,
ヒロキとカードゲームしては,
卯田に騒がれてたな…….
「…….」
「どうしたの? 蒼くん.」
「あ,いや,えっと…….」
今だ……!
今しかないんだ!
もちろんこれは夢だし,
妄想みたいなものだし,
俺のただの自己満足だけど……,
(出来なかったことを,言えなかったことを……)
ちゃんと,
伝える……!
「卯田!」
「ん? なに?」
きょと,とこちらを見つめながら首を傾げる彼女に対して,俺は勢いよく続けた.
「めっっっっちゃくちゃ好きだ!! 好きだった!! よく隣の席になってた小三の頃からずっと! これからもずっと! お前が俺の初恋だ! 」
「!!」
「今日でお互い遠く離れることになるし,もちろん付き合いたかったけど,
それはできないだろうし……い,今は何としても,この気持ちを伝えたかった!!」
「ふふっ……そっか.」
彼女はゆっくり呼吸すると俺の手を取って1度軽く握った.
「ありがとう……蒼くん. まあ,なんとなあく気づいてはいたけどね?」
「え!? ま,まじか……」
「声掛けた時の反応があからさまだったし……あれじゃ普通に分かるよ.」
くすくすと笑みを零す彼女に,
俺は恥ずかしさで顔を赤くしていた……と思う.
「いつか……」
「え?」
「いつかまた会えたら,もう1度言って欲しいな……なんて,ダメ?」
「! 卯田……」
夢だからか,
実際の彼女はこんなこと言ってくれただろうか……
ふわふわとした意識の中で,俺はそう考えていた .
何かそのあとも話していたが,
覚めかけている意識のせいで,声が入って来なかった.
彼女が手を振り,
エスカレーターへと歩いていく.
なんとか告白できた.
満足していいわけではないだろうけど,
覚めてしまえば忘れるかもしれないけど,
俺は……
現実ではできなかった甘酸っぱい体験を
ようやく迎えることが出来て,
やっぱり満足していた.
(ありがとうな,卯田……)
そのまま,視界はホワイトアウトしていき────
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