0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
漆黒に染まった空に、蒼空と名付けた馬鹿は一体どこのどいつだ。
決して晴れる事のない空に対して嫌味を込めたかのような名前だな──僕はよくそう思った。もう蓋は閉じられたのだ。蓋が開いた時もあったらしいが、神様から見放された僕達『人族』の蓋は、きっと開けられる事などない。
要は神様が興味を持ってくれるかどうかだ。
僕達は虫籠に飼われた哀れな虫に過ぎず、汚濁した人の心を垂れ流して淀んだ世界をどうにか変えようとしない時点で、神様は興味を持たない。
つまり、この空が晴れる事など、決してないのだ。
「酷く暗い顔してるね」
透き通るような声。
メナ。鈴夜メナ。
綺麗な銀髪を輝かせて、彼女は僕の隣に立った。
「八つ当たりしてたんでしょ」
「……」
ムスッとして視線を向けなかったらしい僕を見てか、メナは小さく笑った。
「……なんだよ」
「この空」
メナは、白い腕を空に向けて伸ばした。
「まるで人の心そのものよね。せっかく綺麗なのに、なんでかそれを覆い隠して、そして、誰も本来の美しさを知らないのよ」
「だからなんだって言うんだよ」
笑った。今度は、僕を見て。
「貴方は、もっと朗らかに笑えるのに」
……くそ。僕は目を背けた。
直視出来ない。今そんな事言われたら。
そんな笑みを向けられたら。
「昔の話だろ」
そう言って逃げるように空を見上げると、小さな雲の切れ間から、薄っすらと蒼が見えた。
本当に、ほんの少しだけ。
「あらあら」メナは口元に手を当てた。「やっぱり人の心そのものだわ。女の子の笑顔には、ちょっとだけ素直になれるのね」
メナの視線は、雲の切れ間を向いていた。
違う。人の恋路ほど興味をそそるものはないだけだ。
多分、僕は今、青い顔をしてる。神様は出歯亀だったのか。
最初のコメントを投稿しよう!