子猫の青い瞳のなかの

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秋の日は短い。太陽はあっと言う間に沈んでしまう。 瀬木は、俺と遍にソファを譲った。 自分は寝袋で寝るそうだ。 うすい毛布にくるまると、少々カビくさい。 疲れていたので、引き込まれるように眠ってしまった。 気が付くと、隣で遍がぐずぐずと泣いていた。 「おうちに帰る」 目をこすりながら、情けない声で言う。 俺は寝ぼけながら、遍の坊主頭をザリザリ撫でた。 遍の涙と鼻水で、俺のパーカーのそでが濡れている。 キャラメルを取り出して遍に一個やり、 自分も一個口に入れた。甘ったるい香りが、車中に広がった。 そういえば、歯を磨かないで寝ちゃったな。 バレたら、母さんに怒られるな。 ……心配してるかな。 二学期になって、俺は母の身長を追い抜いた。 出がけの母の、伏せた目を思い出したら、いたたまれない気持ちになった。 なぜ母は、猫を飼ってはいけないと言ったのだろう。 なぜ父は、猫を嫌いになったのだろう。 分からない。 大人たちの見る世界は、俺とは違うのかもしれない。 セロファン越しの世界みたいに。 ミヤオのことは、瀬木が守ってくれる。 それなら俺が家出する理由も、もうないのだった。 車の外に出たら、もう空は明けかかっていて、空気がヒンヤリしていた。 足もとの雑草に朝露がいっぱいついてキラキラと光っている。 瀬木が小さなランタンを付けて、文庫本を読んでいた。 「もう起きてたんだ?」 声をかけると、泣きべそをかいている遍に気付いて、本をパタンと閉じ、 「そろそろ帰りますか」 と、外国人みたいに肩をすくめた。
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