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一度だけ、家出をしたことがある。
小学六年の秋のことだ。日曜日だったと思う。
当時、戦争ごっこというものが流行っていて、
その日も近所の子どもたちと集まっていた。
背丈ほども伸びた雑草の陰に身をひそめ、カラのペットボトルを降りまわし、
「ドキュンドキュン」などと効果音を叫びながら走りまわる。
近くを流れる川べりは、戦争ごっこには最適な場所だ。
国境――フェンスがあるからだ。
「兄ちゃん」
六歳離れた弟の遍は、みそっかすで、いつも捕虜の役をやった。
「兄ちゃん」
「なんだよ、捕虜はクチきくな」
「……だってネコちゃんがいるよ」
「えっ」
みんながペットボトルを投げ出して、駆け寄ってきた。
「食ってやろうぜ」とか「川に流してやろうぜ」
とか騒いでいる。
俺も仔猫をのぞきこんだ。
片方だけ開いた目が青い。
グレーの毛並みは汚れて、ところどころ固まっている。
背中に、黄色い花粉がくっついている。
同級生の一人がつかまえた。
近くに捨ててあったお菓子の箱の上に乗っけて、「船だ」と言う。
そしてニヤニヤしながら、本当に川に流したのだ。
俺はぼんやり仔猫を見送った。
川の流れに乗って、箱のボートがくるりと回転し、仔猫の片方の目と目があった。
このままだと確実に死ぬ。
俺はザブザブと川に入った。
川の水は浅く、膝ほどしかない。
大きさのまちまちな石はゴツゴツしていて、ところどころで流れが早かった。
猫の乗った箱を引き寄せると、反動で猫が川に落ちた。
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