子猫の青い瞳のなかの

3/12
前へ
/12ページ
次へ
両手ですくい上げるようにして、拾い上げた。 猫は濡れて、ぐったりとしている。 俺のハーフパンツの、濡れた部分の色が濃い。 風が吹くと、そこのところがすうっと冷たく感じられた。 一緒に遊んでいた友達は、興ざめしたように俺を見た。 何故かぐずぐず泣いている遍の手をひいて、 「帰ろう」と言った。 いつのまにか膝をすりむいていたらしく、ちくちくと痛かった。 「うちで飼いたい」 俺は母に猫を見せた。 昼食の焼うどんを作りながら、母は 「駄目よ、もとの場所に戻してきなさい」 と、冷たい声を出した。 「なんでだよ」 「お父さんが、猫嫌いなのよ」 「でも、こんなに小さいのに」 「和臣(かずおみ)」 俺の名を呼んで、くるりと振り返ると、母はエプロンで濡れた手を拭いた。 「その猫はもう駄目だと思うわ」 目を伏せて妙に静かな声で言った。 もう駄目ってどういうことだろう。 もう死ぬってことだろうか。どうせ死ぬから、もとの場所に返して来いっていうのだろうか。 「どういうこと」 母を睨んだ。 「いいから早く着替えなさい。ああ、血が出てるじゃない」 俺の膝に触れてきたので、その手を払った。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加