16人が本棚に入れています
本棚に追加
両手ですくい上げるようにして、拾い上げた。
猫は濡れて、ぐったりとしている。
俺のハーフパンツの、濡れた部分の色が濃い。
風が吹くと、そこのところがすうっと冷たく感じられた。
一緒に遊んでいた友達は、興ざめしたように俺を見た。
何故かぐずぐず泣いている遍の手をひいて、
「帰ろう」と言った。
いつのまにか膝をすりむいていたらしく、ちくちくと痛かった。
「うちで飼いたい」
俺は母に猫を見せた。
昼食の焼うどんを作りながら、母は
「駄目よ、もとの場所に戻してきなさい」
と、冷たい声を出した。
「なんでだよ」
「お父さんが、猫嫌いなのよ」
「でも、こんなに小さいのに」
「和臣」
俺の名を呼んで、くるりと振り返ると、母はエプロンで濡れた手を拭いた。
「その猫はもう駄目だと思うわ」
目を伏せて妙に静かな声で言った。
もう駄目ってどういうことだろう。
もう死ぬってことだろうか。どうせ死ぬから、もとの場所に返して来いっていうのだろうか。
「どういうこと」
母を睨んだ。
「いいから早く着替えなさい。ああ、血が出てるじゃない」
俺の膝に触れてきたので、その手を払った。
最初のコメントを投稿しよう!