子猫の青い瞳のなかの

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仔猫をふいて、毛布でくるむ。 目やにがいっぱいついていたので、ティッシュでふいた。 一丁前に爪をたててくる。 指をいっぱいに開いているせいだろう、体に対して手だけがやけに大きく見えた。 牛乳を皿に注いでやる。うまく飲めないらしい。 もっと浅い皿に注ぎなおしたが、それでも飲まない。 ひとさし指につけて口元にもっていくと、赤い小さな舌を出して、ちろちろと舐めた。 「そんなんでいいのか?」 俺は声に出して言った。 「そんなんでいいのか。もっと必死に生きろよ」 母に、仔猫を元の場所に戻してくる、と言った。 貯金箱を振って、有り金を全部取りだした。八百二十円。 もっと貯金しておくんだった。 地図。タオル。キャラメル。学習雑誌の付録についていたコンパス。 必要そうなものを、目につくまま、リュックにつめた。 仔猫のグレーの背中をさわった。頼りない温もりだ。 毛布ごと猫をデカめの箱に入れ、自転車のかごにそうっとのせた。 遍が一緒に行くと騒ぎ出した。 「遍は家で待ってろよ」 「やだ、兄ちゃんと一緒に行く」 「駄目だって。母さんからも言ってよ」 「ちゃんと遍の面倒みてあげるのよ」 「……なんでだよ」 遍が、補助輪付の自転車にまたがってついてくる。 空が抜けるように青い。 吹く風は冷たく、冬の気配を漂わせている。 猫は乗っているし遍はいるしで、スピードはさほど出せない。 イチョウ並木の下は、銀杏のにおいがして、轢くと自転車がくさくなる。 「イチョウ爆弾だ」と思う。
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