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戦争ごっこをした川のほとり――仔猫のいた場所を通りすぎる。
もう誰も遊んでいない。
「ここじゃなかった?」
遍が覚えていて、自転車を止めた。
「遍、こっからひとりで帰りな」
「えー。なんで」
「俺は、家を出るよ」
「じゃあ、ぼくも家を出る」
「生半可なことじゃないんだぞ」
「じゃあぼくがいたほうが心強いでしょ」
八重歯を見せてニカッと笑う。
幼稚園児のくせに、生意気なことを言う。
コンパスを取り出した。
ずっと東に行けば、海に出るはずだ。東に進もう。
途中のコンビニで、自分たちの飲み物と、仔猫のための牛乳を買う。
跨線橋を越えて自転車で進んでいく。
ドラクエでは、ひとつ橋を渡ると、より強いモンスターのいる国になる。
俺も、国境を渡った気分。
ドキドキする。
稲を刈り終えたさみしげな田んぼが広がっている。
店も民家もほとんどない。
小高い山のような、森のようなところにぶち当たった。
コンパスは東を示している。迂回するべきだろうか。
細いけもの道は続いている。迷いながら、自転車を押して進んで行った。
木漏れ日が、足元にレース模様の影を作っている。
バアン、と運動会のピストルのような音が響き渡る。
何の音だろう。
立て続けにくしゃみが出る。ブタクサが生い茂っているせいかもしれない。
雑草に隠れるように、「熊に注意」という看板が立っていた。
熊。熊なんているのか。
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