子猫の青い瞳のなかの

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さっきの池のところに移動した。 いつの間に夕方になったのか、空が赤く染まっている。 「あれ、見てみろよ。マガモがいるだろ。あれを撃つ」 瀬木が声をひそめた。 「あの黒い鳥のほうがいいな」 「ああ、オオバンだな。あれはダメなんだよ」 「むずかしいの?」 「むずかしいっつうか、獲っちゃダメな鳥なんだよ」 「なんで?」 「そういうふうに法律で決まってんだよ」 「また法律かよ」 「シッ……」 瀬木は、カモを撃った。 銃声が響く。一羽が羽をばたつかせ、その場に浮かんだ。 他のカモやオオバンがバサバサと飛び去る中、地味な色合いのカモが、 死んだカモにすり寄っていく。つがいなのだろうか。 瀬木は、容赦なくそいつも撃った。 「すっげえ」 と遍が叫んだ。 瀬木は、死んだ二羽に近寄って行って、網で引き寄せ、 首のところをわしづかみし、誇らしげにかかげて見せた。 「すぐ処理しないとさあ、えぐくなるんだよなあ」 言い訳するように瀬木が言い、 木の枝をカモのお尻に突き刺し、腸を引きずり出す。 そして、カモの羽をむしった。 ヒラリヒラリと、羽は花びらのように舞い、俺たちのほうまで飛んできた。 空が真っ赤に燃えていて、瀬木の影が黒く浮かび上がっていた。 一連の作業が終わると瀬木が近寄ってきて、苦笑した。 「ああ、悪ぃ、ショッキングだったかな?」 その言葉で我に返った。 そうだ、俺が撃ってと頼んだのだ。なのに、一瞬逃げたくなった。 「ハラ減ってない? 和臣。遍」
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