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カオリは電話を切ると、足元に置いてあった指環を拾い、シャープな腕の振りで川へとリリースした。
……え?
「違う違う違う違う!!そういう事じゃないよ!!」
「え?これで完璧に吹っ切れるよってことかと思ったのに。」
「いいの!?」
「別に。」
ううううむ。
でもまぁ、それでカオリがいいなら、ある意味良かったのかもしれない。
俺は、へなへなと砂利の上に座り込んだ。
横を見ると、同じように座ったカオリがこちらを見つめていた。
「ありがとね、色々と。」
「俺は何もしちゃいないよ。」
本当にそうだ。結局、俺は何もカオリの役に立たなかった。
「そんなことないよ。ありがとう。」
そんな真っ直ぐ人を見るんじゃない。カオリの罪なところだ。
カオリは川の向こう岸に視線を遣った。しかしその目は、向こう岸とは違う、どこかを見つめているようだった。
「あーあー、カズヤもこれぐらい優しくてイイ奴だったら良かったのになぁ……」
「俺はスマホ投げ捨てただけで泣きわめく女は嫌だけどな。」
カオリが、可愛らしくふくれっ面を作ってみせた。
「何よ!!こっちだってあんたなんか願い下げじゃバーカ!」
「うるせぇ!この泣き虫!」
「何だとー!!」
やっと笑顔になった。俺の好きな、カオリの笑顔。
それが見られただけで、俺は充分だ。
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