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02*神代へようこそ
***
夜が明ける。
頭上の空は、黒色から灰色、白色、やがて青色へと染まる。雲はない。頭上に昇る陽に晒されないように暗い森の中を黙々と進む黒衣の一陣。黒衣を濡らした雨、熱った体に立ちあがった汗、更に吐いた息が、朝靄のように立ちこめる。地面は昨日までの長雨でぬかるんでる。足首を捕まれるような感覚。濡れた黒衣が纏わりつき、しがみつかれるような感覚。
陣頭の黒衣がふと顔を上げる。
木々を縫うように飛んできた使い烏が、陣頭の隣の黒衣の肩に留まる。
『ヨモツシコメも、これほどはしつこくないぞ』
陣頭の黒衣が笑う。
『スサノヲ様。報せが。昨日のカワチの戦、トミビコ様が天ツ軍を退かせました』
スサノヲと呼ばれた陣頭の黒衣が頷く。
『おおッ!』
吉報に黒衣達の感嘆の声が上がる。
スサノヲは頷いたのでなかった。戯言が受けず、落ちこんでた。スルーにガックシだ。
『西の軍も善戦。国つ軍は勝機を攫みました』
『おおッ!』
黒衣達の激越の声が上がる。
スサノヲは戯言が受けなかった理由を考える。死んだことのない皆にヨモツシコメの比喩は、わかりにくかったかもしれない。
『よし、陽が昇る前に本陣に着くぞ』
スサノヲが厳しい表情を見せる。
黒衣達は、トミビコの活躍や、西の軍の善戦に浮かれず、厳しい表情を見せるスサノヲに、じぶんを恥じ、気を引きしめる。
『急ぎましょう、スサノヲ様』
本陣に着くまでに皆が笑い転げる戯言を考える。スサノヲは、じぶんに厳しい武神である。
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