02*神代へようこそ

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 ドアチャイム。 「こんな時刻に、だれ?」  こんな時刻の訪問者というより、このアパートに住み、だれひとりの訪問者もいなかった。いや、新聞の勧誘と怪しい勧誘と宅配の配達はあったな。ああ、そうか、宅配か。なにか送ってくれたかな、現金だったらいいな。……でも、不在通知はなかったよな。キューピーちゃんの恐怖を忘れ、ウキウキとボールペンを片手に玄関に向かう。 「ちょうど肉じゃがに飽きた頃だし」  ボールペンを構えながらドアを開けると、物腰の柔らかい眼鏡をかけた好男子(以下、眼鏡好男子)が立ってる。ユニフォームは着てない。白いカットソーにシャツをはおり、ジーンズ。まさに眼鏡好男子という感じ。 「あ、あ、夜分、申しわけございません」  がっかりした顔を繕い、ボールペンを隠す。 「隣に越してきたので、御挨拶に伺いました。これ、御挨拶です」  手ぬぐいを渡される。神々しい笑顔に、さもしい私の心は癒される。 「よろしくおねがいします」  眼鏡好男子、いや、隣人は、ほほえみながらドアを閉める。  なんということでしょう。隣人は眼鏡好男子になってたのです。気づいたら手ぬぐいに顔を埋めてる。年上かな、タメかな。タメだったらどうしよう。趣旨ガエすれば、いっかー。 「笑顔にラッキー。眼鏡にラッキー」  それに挨拶に手ぬぐいというのもいいよね。すっかり、かっちりとキューピーちゃんの恐怖を忘れ、手ぬぐいを首に巻き、肉じゃがと麦茶の宴を楽しむ。 「越してきたんだって」  ルンルン気分で宴もたけなわ、秘蔵のチーカマを食べようと冷蔵庫を開けたとき、今晩の、ふたつめの疑問。 「……いつだろう?」  越してきた感じあったっけ。先週も、先々週も、先々々週も土日は居たよね。平日に越してきたとしても、挨拶は土日でしょう。なにも平日の、こんな時刻に。顔に書かれただろう疑問符を、手ぬぐいで拭う。……いい匂い。 「ま、いっかー」  気分がいいから、いっかー。チーカマも旨いから、いっかー。  楽観者の私は、疲れた毎日をすぐに忘れてしまう。
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