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「くわぁぁぁぁぁっ!」
ホイットニーがそう言って杖をかざすと、神々しい光が若者に降り注いだ。
「よし。これでお主はたった今から商人じゃ。頑張って商売に励みなされよ」
「はい、ありがとうございます」
若者は深々とホイットニーに礼を言うと、神殿から立ち去って行った。もう外は夕日が沈む頃である。
「さっきの人で今日は最後のようですね」
穏やかな表情でセーファスはそう言う。
「うむ、そうじゃの」
ホイットニーはそう言ってホッと息をついた。
ホイットニーとセーファスが住むのは龍の星にあるマーダという都市。ここで2人は転職の神殿を切り盛りしている。ホイットニーは177歳の大長老であり、その膨大な知識量と分析力、そして人の素質を見抜く慧眼からあまねく人々から畏敬の念を抱かれている。勿論助手のセーファスもホイットニーを尊敬しており、だからこそ若い頃には職を転々としていたのにも関わらず37歳の今まで15年以上もの付き合いを続けているのだ。
「さ、早速帰って晩飯じゃの。今日はキラーサーモンの卵丼じゃよ」
「お好きなんですね」
「そうじゃ。あのツブツブな食感と濃厚な味がたまらなくての。酒が進むのじゃ」
ホイットニーはご機嫌な様子で言う。ちなみにキラーサーモンは龍の星に生息する魚型の水棲モンスター。牙が鋭くかなりの攻撃力を誇るので生身の人間には捕獲は難しい。しかしその卵がとても人気があり高く売れるため、一部のバイキングによってよく狩られている。最近大工からバイキングに転職したゴンがよく持ってきてくれるのだ。
「ま、食べ終わってしばらくしたらたまに右足が痛むのが玉にキズなんじゃがな」
「……大丈夫なんですか?それ。診てもらった方がいいですよ?」
セーファスが心配そうに言ったところで、神殿の扉が開く音がした。
「すみません。今日はもう……」
終わりです、とセーファスが言いかけたところで、男が駆け込んできた。男の目は血走っており、焦燥感が見てとれる。そして男は早口でまくし立てた。
「僕を!僕をすぐに大盗賊にしてください!」
「えっ?でも貴方は……」
セーファスは困惑した表情を浮かべる。それは無理もない。
その男の額には、勇者の印のついたヘッドバンドが身につけられていたのだから。
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