やんごとなき事情

3/3
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
「どうします?大長老?」 「キラーサーモンの卵はやはり美味いのぅ」  ホイットニーは目を閉じたままボソリとそう呟いた。 ーーこいつ、まさか!!!  セーファスはホイットニーの腹に視線を移す。ホイットニーの腹は正確な腹式呼吸のリズムを刻んでいた。 セーファスはエドに見えないように右足をふりあげ、思い切ってホイットニーの左足を踏みつける。 「うぎゃあっ!」   ホイットニーは声を上げてぱっちりと目を開けた。 「寝てちゃダメですよ。分かっているんですか?」  セーファスはホイットニーの耳元で小声で、しかしピシャリとそう伝えた。ホイットニーはやや怯えた表情で頷く。 「大丈夫、ですか?」 「ええ、すみませんお見苦しいところをお見せして。大丈夫ですよ」  セーファスはそう笑顔でエドに答えた。どうやら客商売としての資質はホイットニーよりセーファスの方に一日の長があるらしい。 「それで、転職はさせてもらえるんですか?」  エドは心配そうにホイットニーに尋ねる。 「お主、勇者を辞めたいと本当に申すのじゃな?」 「辞めたいも辞めたくないもこうするしか方法はないでしょう?」  ムッとした表情でエドはホイットニーに答える。 「勇者は一度辞めてしまうと、再び勇者に戻ることができない場合もあるぞ?それでもいいのか?」 「逆に言えば戻ることができる場合もある、ということですよね?はい。大盗賊になります!」  エドは荒い鼻息を吐きながらそう告げた。 「……そうか。ならば致し方あるまい。こっちへ来なされ」  ホイットニーはそう言うと、エドを祭壇へと連れてきた。セーファスは無言で杖を手に取り、ホイットニーの右手に握らせる。 「くわあぁぁぁぁっ!」  エドの頭上に禍々しい光が降り注ぐ。 「これでお主は今から大盗賊じゃ。新たな道でも精進するがよい」  ホイットニーがそう言うと、エドは頭に身につけていた勇者の印を外し、それと似た形の青いガラス玉をはめこんだ。その後ホイットニーらに軽く一礼してその場を立ち去っていった。 「大丈夫……なんですかね?」  セーファスがそう言うところにホイットニーは答えず、小さくなっていくエドの後ろ姿をただただ見守っていた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!