5人が本棚に入れています
本棚に追加
「どうします?大長老?」
「キラーサーモンの卵はやはり美味いのぅ」
ホイットニーは目を閉じたままボソリとそう呟いた。
ーーこいつ、まさか!!!
セーファスはホイットニーの腹に視線を移す。ホイットニーの腹は正確な腹式呼吸のリズムを刻んでいた。 セーファスはエドに見えないように右足をふりあげ、思い切ってホイットニーの左足を踏みつける。
「うぎゃあっ!」
ホイットニーは声を上げてぱっちりと目を開けた。
「寝てちゃダメですよ。分かっているんですか?」
セーファスはホイットニーの耳元で小声で、しかしピシャリとそう伝えた。ホイットニーはやや怯えた表情で頷く。
「大丈夫、ですか?」
「ええ、すみませんお見苦しいところをお見せして。大丈夫ですよ」
セーファスはそう笑顔でエドに答えた。どうやら客商売としての資質はホイットニーよりセーファスの方に一日の長があるらしい。
「それで、転職はさせてもらえるんですか?」
エドは心配そうにホイットニーに尋ねる。
「お主、勇者を辞めたいと本当に申すのじゃな?」
「辞めたいも辞めたくないもこうするしか方法はないでしょう?」
ムッとした表情でエドはホイットニーに答える。
「勇者は一度辞めてしまうと、再び勇者に戻ることができない場合もあるぞ?それでもいいのか?」
「逆に言えば戻ることができる場合もある、ということですよね?はい。大盗賊になります!」
エドは荒い鼻息を吐きながらそう告げた。
「……そうか。ならば致し方あるまい。こっちへ来なされ」
ホイットニーはそう言うと、エドを祭壇へと連れてきた。セーファスは無言で杖を手に取り、ホイットニーの右手に握らせる。
「くわあぁぁぁぁっ!」
エドの頭上に禍々しい光が降り注ぐ。
「これでお主は今から大盗賊じゃ。新たな道でも精進するがよい」
ホイットニーがそう言うと、エドは頭に身につけていた勇者の印を外し、それと似た形の青いガラス玉をはめこんだ。その後ホイットニーらに軽く一礼してその場を立ち去っていった。
「大丈夫……なんですかね?」
セーファスがそう言うところにホイットニーは答えず、小さくなっていくエドの後ろ姿をただただ見守っていた。
最初のコメントを投稿しよう!