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その頃、左門は、自身番の反対側にある木戸番の長老たちと話した後、木戸が閉まる刻に帰路についた。
長老たちは、普段は焼き芋や草履を売って暮らしているが、町内のことをよく知っており、左門には貴重な町のあれこれを知らせてくれる存在であった。
左門は、例の同太貫を持った凶状持ちが傘張り浪人を名乗ったことから、さっそく町のことに詳しい長老に話を聞いたのだが、それに匹敵する人物を長老は知らなかった。
さらに探りを入れるよう長老に頼んだ後、帰路についた左門は、自身の腰にさしている長脇差を見て、少しやるせない気持ちになった。
この長脇差は刃がひかれているのだ。
科人を捕まえる際には、十手を使うのが習いであり、長脇差を抜かざるを得ないほど相手が手向かった場合にも、科人の致命傷とはならぬように刃がひかれているのだ。
かたや兜とて叩き割れるやもしれぬ同太貫、こちらは刃のひかれた長脇差。
これで同太貫の使い手である人外のような科人に立ち向かわねばならぬのだ。
剣の腕には覚えがある左門であったが、この並々ならぬ強敵に対して、まだその素性すら知らぬうちから、身が引き締まる思いであった。
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