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「あの旗本の放蕩者は、三男坊だから家督を継ぐこともないからって、養子にも行かず、武芸や学問をやるわけでもなく、暇を持て余しての放蕩三昧。長屋や町を練り歩いては、目を付けた娘っ子を襲ったり、子供に手出しして手荒な真似を繰り返してやがったからね。あたしゃ、はらわたが煮えくり返ってたんだよ。普段は偉そうにしてる旦那方も何にも出来やしないしね」 「でも読売の話では、辻斬りなら、斬り殺してから懐から頂いて消えてしまうだろうに、紙入れはそのままだったそうだし、そもそも斬首刑のような酷いことをわざわざやったというのは、あれかい?本当は仇討ちかなんかじゃないのかい?」 「仇討ちなら本望よ。だいたい長屋中の人間は、みんなあの外道に仇討ちしてやりたいと思ってたじゃないか」 「そりゃそうだけどさ」 「あたしゃ気分がいいよ。やっぱりお天道様は見ていてくださるんだ。お天道様、様々だよ」 「お天道様が斬首刑にしたってのかい?」 「馬鹿だねえ、お前は。お天道様はよく見ていなさる、わかってらっしゃったって言ってんだよ。もうお天道様に足向けて寝られないよ」 「今まで足向けて寝てたのかい?」 「バカ!お天道様に足向けて寝ようと思ったら逆立ちして寝なきゃいけねえじゃねえか。そんな芸当が出来るものかい!」 「はあ、逆さ吊りにされなきゃそりゃ出来ないねえ。そうか、これからは逆さ吊りにされないようにしなきゃね」 「そんなもん、いつ吊るされるってんだい、お前さんはにわとりかい!」     
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