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「しかし彦二郎様は、確かに放蕩者には違いねえが、剣の腕は相当なものだという噂を聞いたことがあります」 「あの旗本の三男坊は、武芸も学問もまともにはやらなかったが、ただ稽古場で暴れ回った挙句、行かなくなっただけらしい。だが元々筋がいいのか、腕は確かだとおいらも聞いたことがあるぜ」 「そんな強者を易々と斬首刑にしちまうなんて、この下手人は相当腕の立つ武士ということですかね」 「それだけじゃねえ。そんな斬首刑を人出の多い浅草雷門の観音さまの前で、堂々とやっちまったってのも気になる。気のせいかもしれねえがな、おいらは、どうもただの辻斬りでも仇討ちでも、お裁きでもねえ気がするんだよ」 「とおっしゃいますと?」 「仏が試し斬りのように斬り刻まれた胴体に残った太刀の物打(刀の先から四分の一の部分)の痕がな、すこぶる幅の広い太刀で刺された痕だった。ありゃあ、鎬が高く、幅があって重い、肥後の同太貫の物打じゃねえかな」 「同太貫?」 「ああ、おいらが帯同している太刀の倍の重さでな、刀身に反りがなく、鎬が高くて幅の広い、見てくれは美しいとは言えず、田舎臭い太刀だが、頑丈でな、何度試し斬りをしても刃こぼれしない上に折れることもない、すこぶる強靭な太刀だ」 「てことは旦那…」     
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