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江戸の夜空に、今宵は花火が上がった。 仙台堀川の蔵屋敷が打ち上げた花火である。 明治以降には色取り取りの華やかな花火が上がるようになるが、この時代はまだ白色の打ち上げ花火であった。 場合によっては、ほんの少し色味のついた花火も上がったが、その大方は白色の花火である。 隅田川には、花火を愉しもうと、簾がけの屋根船(屋形船)や、武士が乗っている障子が立った屋根船が出ている。 町人の船は、障子立ての屋根船にはやたらに気を使った。 そのように遠巻きにされ、丁重に扱われた一つの障子立ての屋根船から、一人の男が花火を垣間見ていた。 男が屋根船の中に座っている、その横には、刀身に反りがなく、鎬が高くて幅の広い、極めて頑丈そうな出で立ちの、肥後の同太貫が置かれていた。     
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