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小銀杏と呼ばれる小さな髷、文様のない地味な着流しに紋付きの黒羽織、二本差しの刀に朱房の付いた十手を携えた同心特有の出で立ちで、秋山左門は、役者になれるほどのキリリとした美しい顔立ちを渋く歪めながら、油障子を叩いて、自身番に立ち寄った。 左門が中に入ると、火鉢の炭火が見えたが、さっそく、ほどよく暖まっている座敷に上り込んだ。 自身番は町奉行の管轄下に置かれており、そこにいる町役人と、左門のような町方同心はかねてから懇意であった。 「寒いな」 町役人の家主に、左門は捨て台詞のように呟いた。 「旦那、首と胴の生き別れですな」 「それどころじゃねえ、あれは斬首刑だ。臓物飛び出すほど試し斬りされ、腕まで切り取られていやがる。おまけに羅切(陰茎を切り取ること)ときてやがる」 「禅坊主、羅切してから、無一物、というわけではなさそうですな」 「あの仏は坊主じゃねえよ。そんな殊勝な仏じゃなかったようだぜ、あの仏、旗本の三男坊、藤堂彦二郎様はよ」     
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