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岡っ引きの三太は、湯屋を営んでいる。 雷門の観音さまの前まで、十手と捕縄を持って左門に同行した岡っ引きの源七は、小者と呼ばれる岡っ引きである。 小物である源七は、奉行所に名前が届けられており、定廻り同心の左門から手札を貰っていた。 左門の命があれば科人を捕らえることも出来る岡っ引きである。 だが、三太は小物ではなく、幕府とは関係ない、左門が小遣いを与えて抱えている岡っ引きであった。 平素は暮らしを立てるために湯屋を営んでおり、左門には江戸の町の情況を知らせる役回りである。 左門は毎朝、三太の湯屋を訪れ、女湯を貸し切って、三太の話を聞くことをほぼ日課としていた。 与力や同心は、職務の都合上、夜遅くなることが多い。 故に与力と同心にだけ、女湯に入ることが許されていた。 女湯は午の刻(午後十二時)から入りに来る者が多く、朝は使われていない為、そこを左門が貸し切って朝湯に浸かり、岡っ引きの三太から情況を聞き出そうとしていた。 元来、左門は朝湯を好んでいたので、これはちょうど良い按配であった。 「旦那、あの斬首刑の件なんですがね」 岡っ引きの三太は左門に小声で告げた。 「おお、何か噂話でもあるのかい?」     
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