僕が捨てたもの

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──どろり。 溢れ出るように黒がこぼれた。少々粘りけのあるそれは、ポタリポタリと地面に落下すると、奇妙な染みを形成していく。 ネコがひくりと口はしをひきつらせ、一歩背後に退いた。そうしてなにかに怯えるように、その大きな眼を揺らしてみせる。 「な、なんだそれは……!?」 引きつるような叫び声に、僕はそっと口を開けた。 「いつも、いつも思ってる。抱え込んでいる黒い感情。それがこうやって溢れ出す。僕はそれを止めることができないから、こうして仮面をつけて過ごすしかできなかった。だってそうでないと醜いから。他と違うから仕方がないでしょう?」 ポタリ、ポタリとまた落ちる液体に目もくれず、僕は溢れる黒の隙間で口はしをあげる。 「ほら、あげるよ。奪ってごらん」 その一言に、ネコは震えた。冗談じゃないとでもいうように塀をかけ上がるそれは、こちらに背を向け転がるように逃げていく。 つまらない奴だ。 僕は再び仮面をつけ直す。 「いらないよ、こんなもの」 ある日僕は顔を捨てた。 それはこの世でもっとも醜い、黒にまみれたものだった。
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