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「映画、すごく楽しそうに見てたね」
帰り道。
私が話しかけると、
さっきまで緩んでいた蒼井くんの口元が、キュッと締まった。
「……そうですか?」
恥ずかしそうに俯く彼を、
横から差し込む夕日が撫でる。
切り出さなければ。別れ話を。
こんなに素敵な彼を
こんなダサい私が、これ以上独占していてはいけない。
「あのさ」
「あの」
思わず、声が被った。
「何?」
「あ、澄田さんからどうぞ」
「私は……後でいい。先にしゃべって」
「でも」
「いいから」
すると、蒼井くんは少し咳払いをしてから
スッと私を真正面から捉えた。
そして。
「今日は、すいませんでしたっ」
急にふかぶかと腰を曲げた。
「え、どうしたの急に!」
私は慌てて両の手を振った。
「その、今日のデート、
俺本当にかっこ悪くて……」
「何言ってるの急に!それは私の」
「俺、今日のために、予行練習したんです。
ちゃんと澄田さんをエスコートできるように。
だって生まれて初めてのデート、でしたから」
え?
生まれて初めての、デート?
私は耳を疑った。
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