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「でも、付き合って1週間経って、1カ月経って、
毎日一緒に帰るうちに、だんだん実感が湧いてきました。
俺、ホントに彼女出来たんだって。
でも次は、彼女と何をどう話せばいいのか分からず、
毎日戸惑っていたんです。
だから俺、今日のデートに
一発逆転を賭けてたんです。でも……」
そう言い終えた後、蒼井くんは恥ずかしそうにほほ笑んだ。
「逆転どころか、かっこ悪いだけでした」
その眉をハの字に曲げた、
困ったような情けない笑顔は
今までで見たどんな表情よりも、素敵なものだった。
クールな澄まし顔より、ずっと。
その瞬間、私は彼の手を取っていた。
片手だけじゃなく。両手で。
目を丸くする彼に、私は言う。
「私も、かっこ悪いんだ。
先輩なのに、余裕もないし、
上手くリードもできないし。
でも、スピードマンも言ってたよ?
かっこ悪い日々を超えて、今日があるって。
恋人初心者同士、一緒に、頑張っていこ?」
私の笑みが、彼の透き通った瞳に映る。
彼は、唾を飲み込んだ後、
「はい」と、満面の笑みを返してくれた。
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