夏至の頃。

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 鳴き交わす鳥の声と木々のざわめき以外聞こえない、静まりかえったコンサバトリーの中で、清乃の小さな足音と自分の革靴の冷たい音だけが異様に響いた。 「・・・俊一、お前、学校は」  長男はまだ高校生だ。  それにもうすぐ期末試験ではなかったか。  全員の視線が集中していることを知りながら、どうしても赤ん坊と、それを抱く芳恵に声を掛けることが出来なかった。 「・・・そうきますか。いかにも、あなたらしいですが・・・」  俊一が半分呆れたように、眉をひそめて笑った。  その表情のどこかに光子の面影を見いだし、ざわりと胸が騒ぐ。 「試験が来週から始まるので、ちょうど授業もあまりありません。今日はお父さんがここに来ると聞いて、どうなるか見届けに来ました。一応、僕が名付け親ですし」  なあ、かつみ?と、芳恵の正面に回ってかがみ込み、手を伸ばして少しあやしたあと、一声掛けてくるまれた赤ん坊を抱き上げた。 「父さん、勝己です」  慣れた風に揺すりながら振り向いた俊一は、片手でやわらかな毛布をかき分けて顔を露わにする。  そこには、ふっくりと膨らみきった頬と重い瞼に押しつぶされた目元の、いかにも日本的で特徴のない赤ん坊がいた。  正直なところ、上の三人は赤ん坊の時から整いきった顔立ちをしていたことを思い出すと、気の毒な気持ちになり、更には血のつながりに疑問すら沸いてくる。 「ほら、もったいぶらずに目を開けてごらん」  俊一が指先で頬をくすぐり甘い声で促すと、小さな唇が開いてか細い吐息を吐き出し、急にぱちりと瞼を開く。 「・・・な・・・」  緑色の、瞳。  真神の、正統な後継者にも希にしか現われなくなってしまった、色。 「おじいさまと、同じ色ですね」  そう。  数年前に亡くなった当主、春正の色だ。 「これはいったい・・・」 「何も不思議なことはないでしょう。勝己は孫なのだから」  しばらく不思議そうに自分を見上げていた勝己は、やがて興味を失ったのか、またとろんと瞼を閉じて小さなあくびをしたかと思うと、あっという間に眠ってしまった。 「ああ、やっぱりもう駄目だ。寝てしまったよ、母さん」  くるりと背を向けた俊一はすぐに芳恵の元に戻り、弟を手渡す。 「あら、まあ・・・」  久しぶりに聞いた妻の声は、一年前よりもずっと良く通り、柔らかな気がした。 「かつみ、おねむ?」
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