夏至の頃。

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夏至の頃。

 柔らかな感触に、ふと、目を開いた。 「あ、すみません。起こしてしまいましたか」  緑がかった瞳が申し訳なさそうな色を帯びる。 「いや・・・。ちょっと考え事をしていただけだ」  胸元に目をやると、肩から薄いキルト毛布を掛けられていた。  考え事をしているうちに、眠ってしまったらしい。 「夏になったとはいえ、このあたりは風通しが良すぎるからお気を付け下さい」 「そうだな・・・」  椅子に深く沈めていた身体を起こすと、はらりと毛布が落ちかけた。 「どうかそのままで」  そう言うと身をかがめ、わずかに触れない距離で毛布を胸元から足もとまでに引き下げてきた。 「少しお待ち下さい。何か温かい飲み物を運びます」  この息子は、そういう気遣いをいつも見せる。  子供たちの中で一番目立たなかった三男はいつのまにか誰よりも大きく育ち、成熟した男へと成長したのだと、母屋へ足早に去りゆく背中を見つめ、改めて思った。  勝己。  一つ間違えば、こうして会話を交わすことはなかった、最後の子供。  ほどなくして彼は大きな盆にティーセットを載せて戻ってきた。 「・・・それは」 「ああ、果樹園に植えていた無花果が食べ頃になっていたのでもいできました。先ほど厨房の人たちと食べてみたら美味しかったので」  瑞々しく皮の張った果実を取ると、慣れた手つきであっという間に皮を?き、切り分けて小皿に盛り銀のフォークを添えて差し出してきた。 「召し上がりませんか。紅茶に合います」 「うむ」  肯いて口に運ぶと、特有のねっとりした甘さが舌に広がった。 「そういえば」  ふと気が付いたかのように首を傾けてぽつりと言った。 「どこかの地方では、今日、無花果を食べる風習があるとか」 「なぜだ?」 「今日は、夏至ですから」  夏至。  勝己と、初めて会ったのは夏至の、昼の庭だった。  スイスの母の別荘で会った時、もう既に生まれて三ヶ月以上経っていた。  今でも時々思い出す。  窓を開け放した、コンサバトリー。  およそ一年ぶりに会った下の子供たち、そして東京にいるはずの長男の俊一、母らに囲まれた中心に、淡い桜色の服を着た妻が守られるように椅子座っていた。  そして、その腕の中には白い包みが大事そうに抱えられ、ゆったりと揺すられている。
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