優しい指

寂しさを超えて

「おはようございます」
　優子は普段は中小企業の事務職をしていてる。
　今日は一際元気に挨拶をしてみた。
「おっ、朝から元気だなぁ……さては彼氏と盛り上がったなぁ」
　先輩の斉藤が優子をからかった。優子は自意識過剰だとは思うが、この先輩に好意を寄せられているような気がして、あえて距離を取っている面がある。
「逆ですよ。別れちゃいました」
「マジで！？俺、立候補しちゃうー！」
　斉藤は大真面目で言っていたが、優子はそれを淡々と受け流した。
　今は仕事。仕事を頑張るんだ。自分に言い聞かせた。
　今日は真司と真希さんの結婚式だ。
　仕事の合間にもふとそんな事を考えてしまい、腫れぼったくなった目がまた熱を帯び始めた。
　PC作業をしている時、真司が買ってくれたペアリングが失くなっている事実も悲しみを呼び寄せる起因だった。
　結局、優子は気落ちしたまま職場を後にして、慣れない一人暮らしの部屋へと帰宅した。
　すると、誰もいないはずのリビングに灯りが灯っていた。
「真司……？」