第3章 第3相談者

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滝川よし江は焦りを感じていた。この2,3カ月はなんだかんだで儲かっていた。それがこの2,3日どうも玉が出ないのである。よし江は続けざまに諭吉を追加した。冷や汗が出るがこの崖っぷち感覚がスリルを助長して興奮する。しかし今日は7時間粘っても一向に出る気配がない。煙草の吸殻だけが空しく溜まっている。 「よし江ちゃん、もうやめといたら」近所の清(せい)次(じ)が耳元で叫ぶ。 「また、借金こさえたら、もう住むとこないで」清次の忠告は正しい。     *  よし江がパチンコにはまったのは、夫をがんで亡くし、広島から息子夫婦のところへ越してきてからである。夫からも、田んぼからも、古民家からも、抜け出して、やっと自由になれたよし江が東京に来て、何をするかと言えばパチンコくらいしかなかったのである。いまさら姑づらして、偉そうなことを嫁に言うつもりはなかった。家事も料理も一応はやってくれる嫁にはなにも文句は言えない。かといって1日中、家にいるわけにもいかず、困っていた。老人会はよそ者だから入りづらい。そこで出会ったのがパチンコだった。最初は少ない年金から一万円程度でやめておいた。しかしいざいい台にあたるとあっという間に倍になった。年金の少なさが、馬鹿らしくなった。2万円を資金にまたいい台に当たった。3万円になった。こうして、損失はあるもののトータルでは儲かった。     
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