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「あ、初めての方ですね、はい、お名前からどうぞ、仮名でもかまいませんよ」
今日も仕事の始まりだ。
*
「だから兄ちゃん、今度だけは信用してくれよ。今回飲んだら、きっぱりとやめる。おれだってもうどうにも手に負えなくなってるんだ。こうして電話したり、人と話すのにも酒がないと気力さえ湧かないんだ。明日の朝、千円でいい。それを最後に手首でも切るか、トラックにでも轢かれてみせる。な、兄ちゃん。俺なんて消えてなくなればみんな喜ぶだろ?」健次は半分呂律が回ってない。また深夜の2時だ。
「いいか、健次(けんじ)。もう何回目だ? 今のお前はダメ人間じゃないんだ、病気なんだ。死ぬ、とか脅かすのはもうよせよ。たのむから病院にいってくれよ」兄・原哲也(はらてつや)はゆっくりと落ち着いた声で健次に言い聞かせた。
「わかった。わかったよ兄ちゃん。病院へ行く。だから千円、千円だけでいいから、明日、駅前で待ってる」健次はいつもの場所を指定した。
「病院は生活保護で何とかなるだろ。もう少し渡すから今日はもう寝てくれ」哲也はうんざりした口調で電話を勝手に切った。
「健次―、健次―!」すぐ横のベッドで父親の雄一が叫ぶ。
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