春の光

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 久し振りに聞いた名前だった。ほんのわずか、心がざわめく。  痛みに近い懐かしさが瞬時に広がった。その感覚は、今でもキュッと胸を締め付ける。  未練とはまた違う、取り戻すことのできない過去の時間に対する郷愁。  迫ってきたそんな思いを、わたしは飲み込むように受け入れて、笑う。 「どうなんだろうね。どこのサークルも4年生は引退したっぽいけど。――そういえば琢磨くん、彼女ができたって聞いた。風の噂で」  あえて情報を口にする。胸に秘めておくほどの想いは、もうないから。 「風の噂って言っても、確かだと思うよ。同じサークルの後輩なんだって」  仁がヒューと軽く口笛を鳴らした。 「後輩とかに人気ありそうだもんな、あいつ。……だけど、そうか……。あいつも、幸せなのなら良かった」  その言葉に、どれほどの想いが込められているのかはわからない。だけど、上辺だけの言葉じゃないのは感じられた。 「……うん。良かった」  わたしも、心からそう思っている。
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