40人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
..:*・..:*・..:*・..:*・
「いいなぁ。俺も出たかったよ、のんの入学式」
着替えを済ませてダイニングに下りてきた仁が、ため息をつきながらドカッと椅子に座った。
仕事で希望の晴れ舞台に居合わせられなかった仁は、少しだけご機嫌斜めだ。
そんな仁に苦笑しつつ、よそったご飯を仁の前に置く。
「はい、どうぞ。――希望、立派だったよ。ビデオも撮ったから、今度見てあげて」
「うん、そうする。じゃ、いただきます」
律儀に手を合わせて、仁は食事を始める。わたしはというと、食事はとうに済ませてあるため、お付き合いのために仁の向かいに座った。
仁は会話も忘れるほど食事に集中している。よほどお腹がすいていたのだろう。
ちらりと時計を確かめると、もう22時になろうとしていた。希望はとっくに寝た時間だし、お父さんも仕事があるらしく部屋に籠っていた。さっき帰宅したばかりの仁は、こうして一人で夕食を摂ることになる。だけど、こんなことは今では珍しいことじゃない。
去年、仁はかねてからの希望通り、小学校の先生になった。赴任先の学校は家から通勤するには少しだけ遠い。電車を乗り継いで一時間程かかるようだ。21時過ぎての帰宅は平均的。もっと遅い時だってざらにある。
ちなみに、仁の勤め先の学校も今日が新学期始まりの日、そして入学式だった。
「新年度早々、大変だね」
ついめ息交じりに言うと、仁が「ん?」と顔を上げた。口いっぱいに頬張ったとんかつをごくりと飲み込むと、小さく苦笑した。
「新年度だからこそ大変なんだよ。もう少しすれば落ち着く」
「うん……そっか」
仁は2年目の今年、クラスの担任を持つことになった。だから、新年度だから特別にではなく、これからずっと、普通に大変なんじゃないかと思ったりもするのだけど。
最初のコメントを投稿しよう!