春の光

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 ..:*・..:*・..:*・..:*・ 「いいなぁ。俺も出たかったよ、のんの入学式」  着替えを済ませてダイニングに下りてきた仁が、ため息をつきながらドカッと椅子に座った。  仕事で希望の晴れ舞台に居合わせられなかった仁は、少しだけご機嫌斜めだ。  そんな仁に苦笑しつつ、よそったご飯を仁の前に置く。 「はい、どうぞ。――希望、立派だったよ。ビデオも撮ったから、今度見てあげて」 「うん、そうする。じゃ、いただきます」  律儀に手を合わせて、仁は食事を始める。わたしはというと、食事はとうに済ませてあるため、お付き合いのために仁の向かいに座った。  仁は会話も忘れるほど食事に集中している。よほどお腹がすいていたのだろう。  ちらりと時計を確かめると、もう22時になろうとしていた。希望はとっくに寝た時間だし、お父さんも仕事があるらしく部屋に籠っていた。さっき帰宅したばかりの仁は、こうして一人で夕食を摂ることになる。だけど、こんなことは今では珍しいことじゃない。  去年、仁はかねてからの希望通り、小学校の先生になった。赴任先の学校は家から通勤するには少しだけ遠い。電車を乗り継いで一時間程かかるようだ。21時過ぎての帰宅は平均的。もっと遅い時だってざらにある。  ちなみに、仁の勤め先の学校も今日が新学期始まりの日、そして入学式だった。 「新年度早々、大変だね」  ついめ息交じりに言うと、仁が「ん?」と顔を上げた。口いっぱいに頬張ったとんかつをごくりと飲み込むと、小さく苦笑した。 「新年度だからこそ大変なんだよ。もう少しすれば落ち着く」 「うん……そっか」  仁は2年目の今年、クラスの担任を持つことになった。だから、新年度だから特別にではなく、これからずっと、普通に大変なんじゃないかと思ったりもするのだけど。
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