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「大丈夫だよ」
え……。
「少し、一緒に過ごせる時間が少なくなっただけ。だったら、意識してどんどんそういう時間を作ればいいんだよ」
思わず目を見開いて仁を見返した。仁は笑みを深める。
「心配するなよ、カズ」
ああ、そうか……。
仁はお見通しだったのだ。わたしが、今のこの家庭の変化を気にして、憂えていること。
――本当にもう……仁には参ってしまう。
「あ。それと、もう一つなんだけど」
ごくんと口の中のものを飲み込んでから、仁が少しだけ身を乗り出すようにした。心持ち、なぜかひそひそ声で話し出す。
「ゴールデンウィークの前に、今月の週末のどっかで、ゆっくり遊びに行こう――泊りで」
「泊り? でも、ゴールデンウィークに旅行行くんだったら別に無理して行かなくても……」
「違うって。家族旅行じゃなくて、二人でってことだよ。俺とカズだけで」
「え?」
ポカンとしたわたしに仁が苦笑する。
「ホント、おまえそういうの鈍いよな。近場の温泉なんかでもいいしさ、どっかでゆっくりしよう。最近、ろくにデートもしてないし、そろそろ俺もいろいろ限界。――ということで、いい?」
「えっ? えーっと……」
「そこは即答するところ。考え込むなよ」
仁が軽くわたしの額を指でつついた。
「場所と日付け、俺が決めてもいい? できるだけ早く決めるから。了解?」
なんて強引な。こっちが断るかもしれないとか、考えないんだろうか、まったく……。
「……うん、了解」
結局、わたしは素直に頷いた。
仁の強引さに呆れつつも、断るという選択肢はわたしには存在しなかったのだから、仕方ない。
仁はきっと、そんなことも全部お見通しなのだ。
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