春の光

9/20
前へ
/20ページ
次へ
 パシャパシャと水音が聞こえる。何をやっているのかわからないぶんだけ、向こうの気配には敏感になってしまう。それがおかしかった。 「はぁ。気持ちいいなぁ」 「うん、最高だね」  お湯は熱くもなく温くもない。外気も暑くもなく寒くもない。本当に何もかもが快適だ。 「……カズはさ、温泉に来ると、まず何思い出す?」  唐突とも思える質問だったけれど、すぐにその答えは浮かんだ。 「一番初めに行った『家族旅行』かな。仁と初めて会った時の……」  もっとも、まだ正式な家族ではなかったけれど。わたしはあれは一番最初の家族旅行だったと思ってる。  思い出していたのは、お父さんとお母さんが再婚する前に、みんなで行った旅行だ。わたしたちが家族となった、始まりの日。  クスッと仁が笑った気配がした。 「そうだな。俺も同じだ」  なんとなくしんみりとした気分になって、わたしはじっと湯面を見つめた。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加