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「よっ」
待ち合わせを5分過ぎた辺りで、悠資はあたしの肩を叩いてきた。
時間にルーズな悠資が「待った?」なんて訊いてきたのは付き合ってほんの数日のうちだけで、今では5分くらい遅れて来たからといっていちいち目くじらを立てていたら、デートにならない。
悠資は早速あたしの手を取り、歩き出す。
街中を手を繋いで歩く歳でもないのだが、悠資は何も言わずにスッと手を包んでくる。
半歩後ろから覗き込む横顔は、とても可愛い。
──掘り出し物というのは、なかなか無いから掘り出し物というのであって。
買い物デートは空振りに終わり、その予算はそのまま食事に回すことにした。
電車に揺られ、悠資の住む街へ。
ここは学生なども独り暮らしをするような街なので、スーパーの類は充実している。
豪華に蟹を投入した海鮮チゲ。
若い男の子らしく肉好きな悠資の為にブランド豚のバラ肉も入れる。
鍋に火を入れると、手狭な悠資の部屋はすぐに暖かくなった。
チゲの辛さとアルコール、そして室温。
すぐに顔に出る上気。
額に汗を浮かぶのもそのままに、夢中になって鍋を突く。
真冬にじっとりとした汗をかく心疾しさが、何とも言い難く官能的だ。
悠資も同じだったようで、テーブルの上は食い散らかしたまま、体は汗ばんだままで、あたしの服を脱がしていく。
目の端に映る生活感がとてもあたしは嫌で、片付けたくて仕方なくて、だからより一層、快感の海に溺れた。
夜中、ふと目を覚ますと、隣に裸の背中が見えた。
調子の狂った秒針のように上下するその背中を指でそっとなぞって、あたしはやっぱり、どうしようもなく快楽に生きているんだな、と実感した。
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