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「時間遅くなるのはいつものことだけど、せめて来る時間くらい言ってくれれば料理温めて待ってるのに」
あたしは鍋掴み越しに分厚い鉄板を持って、オーブンに突っ込みながら悠資に不満を漏らす。
「ごめんごめん」なんて嘯く悠資はその表情を見なくても、素知らぬ顔をしてることなんて火を見るより明らかだ。
オーブンのガラスの向こうでイカが爆ぜた。
ムール貝の貝殻を最後の一つまで片付けると、あたしと悠資はオーディオルームのソファーで肩を寄せ合った。
テレビには悠資がレンタルビデオ店で借りてきた、目の大っきな女の子が主人公のアニメが映し出されていて、それをぼんやりと眺める。
あたしだけだったらまず考えられないチョイスで、あまりその内容に期待してはいなったが、なかなかどうして観ていると胸に迫るものがある。
優柔不断で、闘うことに踏ん切りがつかない主人公。
しかし、心優しい先輩や昔からの親友が次々と凶行に倒れていくと、否が応でも主人公は闘いに巻き込まれていく。
「誰かの役に立ちたい」という願望と、「私なんかに何が出来る」という葛藤はファンタジーじゃなくとも真理に迫り、ぼんやりと観ていたはずが、いつの間にか前のめりになっていた。
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