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「すっげー眠ぃ」
なら寝ればいいのに、なんて微笑んでいると、悠資はこれでもかと頬を擦り寄せてくる。
猫みたいな奴だ。
「なんか話して」
本当に寝る気があるのかどうか疑わしいくせに、子供が母親に夜伽話をせがむごとく縋り付くような目をする悠資に、あたしの胸の嗜虐的な部分がくすぐったくなる。
「じゃあさ……」と口を開くと、悠資はごろんと俯せになって耳を傾けてきた。
「あたしが“ひとつの世界を終わらせる言葉”を知ってるって言ったらどう思う?」
「なにそれ?怖っ。なになに?」
怖いという要素皆無にはしゃぐ悠資は、あたしの手をぎゅっと握ってきて、イタズラな顔を浮かべる。
「『バルス!』……とか」
「違うよ。そういうのじゃなくて」
あたしが笑いながら指を解くと、悠資は改めて考え込むような素振りをみせる。
「んー。……俺だったら『結婚しよう』かなー。言われたら人生終わるわ」
「『別れよう』じゃなくて?」
「別れても、新しく違う世界が始まるだけだよ。結婚は人生の墓場。昔の人の言うことは間違いないねー」
「ふーん」
あっけらかんと言う悠資の表情は本心から故に他ならないが、いかにも彼らし過ぎて驚きはしなかった。
が、彼は急に真顔をつくった。
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