1.融けるように

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「絶対不倫だと思ってたよねー」 「思わせるように仕向けてたんだろ」  くっくっく、と祥太郎はリズムよく笑う。 「咲奈(さな)わざと俺の手取って開かせたじゃん」 「あのサラリーマンめっちゃ指輪みてたよ」 「悪い女」 「何を今更」  ガラガラの車両に、二人の笑い声が響く。  端の席に座っていた酔っ払いが『何事だ?』と目を覚まして、キョロキョロしている。  あたしと祥太郎は顔を伏せて、声を噛み殺した。 「楽しくなってきちゃった」 「俺も」  声をひそめて囁き合っていると、まるで本当に秘め事のようで、気分は偽りの混じった高揚をみせる。
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