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「もう一回だけ言う。帰って」
あたしの声のトーンに何かを察したのか、しぶしぶ、といった息を吐いて悠資は立ち上がった。
薄手のジャケットを羽織り、レンタルビデオ店の手提げを左手の指に引っかけて、「またね」とあくまでいつものように言いながら、寝室の戸を引く。
「珍しくムキになったってことは、図星だったのかな?」
前髪を摘まみながら廊下に消えていく悠資の言葉が、あたしに染み込んでいく。
それをあたしの脳味噌が理解すると、反射的に扉に向かってクッションを投げつけていた。
大して音も立てずに崩れ落ちてはくにゃりと情けない姿を晒すクッションが、何だかとても滑稽だ。
“世界を終わらせる言葉”。
そんな大層なものではなかったが、悠資の言葉で、あたしの部屋にはピキッとヒビが入った気がした。
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