6.灰色の雲

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 あたしは寝転んだままスマートフォンの電話帳を開いて、上から順にスライドさせる。  姓名を確認しては、ひとりひとり顔が浮かんで消えていく。  交友関係。仕事関係。  それからトークアプリも開いてみる。  一度会っただけの人。  飲み屋で意気投合した人。  旅先で知り合った人や、音楽フェスで隣の席になった人。  やがて数百件のアカウントの、一番下にたどり着く。  そんな作業をしている内に怒りの感情は少しずつ風化していき、その空いた穴に滑り込むように虚しさが充満していく。
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