6.灰色の雲

3/3
前へ
/44ページ
次へ
 誰かに抱かれたかった、というのは本心からのものだったが、誰でもいいというわけではなかった。  当てが外れて、あたしはスマートフォンを乱雑に置いて、大の字になる。  ため息が零れていく。  そうしていてもしょうがないとしばらくして気付いたあたしは、仕方なく立ち上がって、外に出ている植物たちに餌を与えることにした。  溜息で構築された灰色のビル群の上の灰色の雲を散らしたくて、あたしは空に向けてホースの水を放つ。  汚れた水でも虹って架かるのかな──。  そんなことを考えている自分が何だか滑稽に思えて、笑いが込み上げてきた。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

56人が本棚に入れています
本棚に追加