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仕事場からも繁華街からも近く、それでいて駅周辺自体は治安の良いこの辺りに住んでいることは、正直いってあたしの自慢だ。
いいところに住むというのは、いつも遊んでばかりで落ち着くことなど考えもしないあたしが普段は一生懸命働いて稼いでいることの証明であり、そんなあたしを嘲笑させないための世間への抵抗なのだ。
人気の住宅街の入口であるこの駅もさすがに終電間際のこの時間は静かなもので、あたしと祥太郎の靴音が冬の静けさに響く。
「もうすっかり冬だねー」
静寂に溶け込んでいくように、あたしの白い息はふわっと舞い上がる。
その横で、襟を合わせて首をすぼめる祥太郎は黙って頷く。
「お酒もおつまみも家にあるけど、コンビニ寄ってく?」
緩やかな坂を上りながら、あたしは祥太郎に尋ねた。
祥太郎は週刊の漫画雑誌を買って行こうかな、なんてこの夜に相応しくないつまらないことを言う。
そんなの明日でもいいじゃん、と祥太郎の腕を引っ張って、坂を駆け上がった。
酔っ払ってる上にそこら辺の社会人と同様に運動が足りていない二人の息はすぐに上がり、リズム良く吐き出される白い気体は、空まで上って星でも構築しそうな勢いだった。
酔いに任せて、あたしはそんなロマンチックなことを考えていた。
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