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2.地元の空の下
頭の下でムームームームー震えるスマホの違和感に、あたしは目をゆっくりと開けた。
寝返りをうつように気怠くソファの下を覗いてみると、暗い部屋の中にあって祥太郎のスマホがアラームで揺れていた。
「……あたし、酒臭い」
目が覚めてしまったあたしは、そのにおいの原因となっているもののせいで鈍く痛む頭を振りながら、誰にというわけでもなく呟く。
「なにをわかりきったことを……」
眠っているとばかり思っていた隣の男が、目を閉じたまま応える。
その息があたしと同じ臭いなのに気付いて、あたしはウンザリとしながら、この退廃的な空気を慈しんだ。
「ねぇ、祥太郎」
起き抜けのせいで不意に甘ったれた声が出てしまった。
しかし、祥太郎はそんなことは意に介さずに「下の名前で呼ぶなよ」と拗ねながら、まだ眠たそうにそっぽを向く。
“郎”はいらない。古い。と祥太郎は常々言っている。
“祥太”がよかった、と。
“郎”の何が古いのかあたしにはよく判らないので、何度そう言われてもついつい“祥太郎”と呼んでしまうが、本人には拘りがあるらしい。
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