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1.融けるように
「ねえ、次は奥さんいつ居ないの?」
閑散とした駅のホームは存外声が響いて、少し離れた場所にいたスーツに身を包まれた男がぎょっとこちらを見る。
あたしと視線がバッチリ合って男は慌てて目をそらしたが、新聞を覗きこむフリをしては、チラッチラッとこちらを窺っている。
あたしはそれを見て、わざとらしく話し掛けた相手にしなだれかかった。
お酒の臭いと香水の入り混じった、いつもの臭いがする。
そんなあたしに一瞬驚きはしたものの、何か伝えようとしているあたしの視線の先を自然に追って、「察したよ」と言わんばかりにあたしにだけ分かるように小さく頷く祥太郎が、あたしはやっぱり好きなんだと思った。
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